日曜日――
全ての準備が整い、あとは放送するだけとなった。
「来ますかね……」
見里は、連絡の取れなかった冬子のことを心配していた。
予定していた放送開始時刻まで、あまり時間がない。
と――
「はぁ……はぁ……」
けたたましい音を立てて勢いよく扉が開かれる。
そこには、冬子の姿があった。
そして――
「霧ちん!?」
「桜庭!?」
美希と友貴が、冬子とともに現れた人物に驚く。
「……全員、集合ですね」
見里は驚きを隠して、にっこりと笑みを浮かべた。
「では、また来週――」
いつもの言葉で、放送を終える。
「さて……」
一息つき間もなく、彼はいそいそと立ち上がった。
そして、一度空を見上げてから駆け出す。
日曜は実質半日もないから、祠に着くのはぎりぎりになる。
「っと――」
慌てて落としてしまったラジオを拾う。
「これだけは失くせないからな」
半ば無理やりではあるが、みんなに持たせたものと同じラジオだ。
太一にとってこれは、放送部員と自分とを結ぶ絆だった。
「ん?」
(今、ノイズが聞こえたような……)
そう思ってから、そんなはずはない、と否定する。
誰もいないこの世界では、ありえないことだ。
『……ちら……群……放送……』
「なっ」
なつかしいこえがながれた――
「みみ先輩……?」もしこれが太一の幻聴ではなく本物なら――
「何で……」
――間違いなく、これは奇跡だ。
太一の放送が届くなら、その逆も当然できる。
だが、実際に太一に届くかどうかというと、それは限りなくゼロに近い。
太一はチューナーを捻って音を安定させる。
もっとも、移動しながらだからあまり期待できないが。
『といっても、噂になってる幽霊放送ではないんですよね』
『そういうのはいいから、早く始めようよ』
美希と霧の声。
『そうね』
冬子の声。
『て言っても、特に何を話そうとか決めてないじゃん』
相変わらずツッコミ役をやっている友貴。
『そうか? 俺はもう決めてあるぞ』
『嘘つけ』
あの桜庭までもがいる。
「……みんな、いるのか」
『好きなことを話せばいいのよ。わたし達は、そのために放送してるんだから』
その言葉と声に、太一は耳を疑った。
「曜子ちゃん……」
それは、かつて太一が望んでいた風景。
放課後にみんなで部活する、ありふれたモノでしかない。
それでも、そんな当たり前を、太一は欲していた。
普通ということに、憧れていたのだ。
「はは……」
いつの間にか着いていた祠に寄りかかる。
人の知覚力では、世界が分解され再構築される様を知ることができない。
緋を過ぎ、藍色に染まった空は、終わりの始まりだ。
強烈な睡魔が太一の全身を襲う。
最後まで聞くことは叶いそうになかった。
だから――
意識を失う瞬間、自然と言葉があふれた。
「……ありがとう」
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あとがき
いやー、終わった終わった。
CROSS†CHANNELはAIR並に難しいんで結構つらかったですが、何とか終わらせることができました。
最近はまた忙しくなり、あまり書く時間がないのですが、何とかがんばりたいです。
では今回はこの辺で。
黒犬でした。
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