| 10/07/31(STA) 技術で勝って商売で負ける日本企業 |
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いうまでもなく、
日本企業のワールドワイドでのプレゼンスが著しく凋落しています。
ハイテクもこの例外ではありません。しかし、日本のハイテク技術は
いまだにワールドワイドでもトップとも言われています。
日本企業は技術で勝っているのになぜ商売で負ける
のでしょうか? まず、ショッキングな図1を見て下さい。半導体の中では最も生産額が大きなDRAMで、日本企業全体の ワールドワイドシェアは悲惨な推移になっています。 悲惨なのはDRAMだけではありません。液晶パネル (※注:液晶テレビではなくパネル)では、 1996年ごろまで日本のワールドワイドシェアは実に100%でした。 つまり、液晶パネルを作れるのは日本企業のみだったのです。 シャープなど1970年代から液晶を作っている日本企業と、欧米、アジア企業とは技術、 ノウハウ、特許(※注:特許は出願から20年間も権利が存続する) などの大きな壁があって、誰も日本のマネさえ出来なかったのです。 しかし、日本の技術(その多くはリストラされた大手企業の元エンジニア)を 取り入れた台湾、韓国の新規参入によって日本企業は徐々にシェアを奪われ、 2000年には50%を割り、現在は10%ぐらいになってしまいました。 このような例はDVDプレーヤ、カーナビ、太陽電池と枚挙にいとまがなく、 ほとんどのアイテムでDRAMや液晶と同じ悲惨な推移をたどってワールド ワイドシェアを落としています。日本企業は技術で先行しても商売で負けてしまい、 アジアなどで最も数が出るようになると撤退に追い込まれる企業が多いの です。 図1 日本企業が負ける理由は、日本企業はアジア企業に比べて、 ・人件費をはじめとするコスト高 ・法人税率が高い ・経営のスピードが遅い ・過剰品質でアジア諸国のニーズに合わない ・円が高すぎる といわれています。あるいは、 ・日本政府の後押しがないので受注で負ける ・アジアで模倣品が跋扈して利益にならない etc… しかし、上記のような分析は単なる思い付きのイメージに過ぎず、 根本的な理由は何なのか、という議論はされていないので疑問が残ります。 そのような疑問に答え、日本が負ける理由に関して、 近年アカデミックな場で考察が進んでいます。 以下では、東京大学知的資産経営の小川紘一教授、 東京大学産学連帯推進の妹尾堅一郎教授らの考察の一部を抜き出し、 さらに自分の考えを加えた上で再構成してみました。 これらの研究では多くの実例が紹介されていますが、 ここではまず日本企業が負けた典型的な例として、DVDプレーヤをとりあげます。 ちなみにDVDは世界初のデジタル画像メディアで、 ソニーなどの日本企業が長年研究開発を行い、 日本企業が主導してその規格をつくりました。 DVDでは、DVDディスク、DVDプレーヤ、DVDレコーダともに、 日本企業の数社が重要な特許をほぼ独占(90%以上)していました。 このように日本企業が世界をリードしたDVDプレーヤは、図1のように、 1998年時点で日本企業のワールドワイドシェアはほぼ100%でした。 しかし、コストダウンのために日本企業がアジアへ生産拠点を移すにつれ DVD関連技術が流出し、アジア企業が徐々にDVDプレーヤに参入してきました。 そして図1に見られるように、早くも2001年にはシェア50%割れ、2004年には20%割れ、 現在の日本企業のシェアは10%以下でかなり 悲惨な数字になっています。 まず疑問に思うのは、 日本企業が研究開発から量産まで営々と築き上げてきた技術を、 なぜアジア企業がわずか数年でマネできてしまったのでしょうか? アジアが速いスピードで日本をキャッチアップしてしまう理由があるのでしょうか? これが 「最初の疑問」 です。 また、DVDプレーヤの重要特許を日本が独占しているのに、 なぜアジア企業がDVDプレーヤを生産できるのでしょうか? 日本企業はなぜ特許を使ってアジア企業の生産や販売を止められないのでしょうか? これが 「2番目の疑問」 です。 「3番目の疑問」 は、コストです。日本企業の生産拠点はほとんど人件費の 安いアジアに移転してしまったので、アジア企業とほとんど同じコストで 製品を製造できるはずです。しかし、実際は日本企業のコストは高いのです。 これはなぜでしょうか? 以上3つの疑問を考えることによって、「日本企業が 技術で勝って商売で負ける理由」 がほぼ明らかになります。また、これら3つの疑問の答えは相互に絡みあっています。 十分に理解するには技術のみならず、独占禁止法、 特許法などの法律の知識も少しだけ必要です。 「最初の疑問」: アジア企業が速いスピードで日本をキャッチアップしてしまう理由 大まかに分ければ、技術には摺り合わせ(インテグラル)型の技術と 組み合わせ(モジュラー)型の技術があります。 インテグラル型の典型はガソリンエンジン車 です。ガソリンエンジン車は数万点の部品から成っています。 そして、それらの精密なインテグラル技術がないとガソリンエンジン車は 作れませんし、日本車のように性能のよいガソリンエンジン車ともなると、 さらにハードルが高くなります。 一方、モジュラー技術の典型はディスクトップパソコンの組立です。 パソコン用のマザーボード、HDD、メモリ、ディスプレイなどが秋葉原でも 規格化された部品として売られています。それらを買って組み立てることは 個人でも可能です。特に高度な技術は必要なく、 アジア企業も簡単に新規参入できます。 インテグラル型の技術としては他に、ハイテクではデジカメ、 二次電池、半導体製造装置などがあります。ちなみに原子力発電所、 新幹線、スーパーコンピュータもインテグラル型の技術です。 モジュラー型の技術としては、一般的な携帯電話、 一般的なデジタル時計、普通のCDプレーヤ、固定電話、 FAXなどがあります。 また、図2に見られるように、かつてはインテグラル型技術 (図2の右上のエリア)だったものが、 種々の理由によって年月を経るにしたがってモジュラー型技術(図2の左下のエリア)に 変わっていきます。今はインテグラル型技術である EV(電気自動車)もやがてはモジュラー型技術に変わると いわれています。 図2 一般的に、インテグラル型の技術はマネをするのが難しく、 アジア企業はなかなか日本企業をキャッチアップできません。一方、 モジュラー型の技術は容易にマネできます。また、 技術のトレンドはアナログからデジタルに向かっていて、 これはかつてはインテグラルだったアイテムが、 次第にモジュラー化するというトレンドであると言い換える ことができます。 例えば、腕時計は1970年代前半までは典型的なインテグラル型の 技術で作られていました。(図2参照)機械式の腕時計は多数の精密部品の摺り合わせで 組み立てられていました。この時代は大卒初任給が10万円以下だったのに、 腕時計は数万円と高価で、1万円以下の腕時計は存在しませんでした。 大げさに言えば腕時計はひとつの財産でありステータスでした。 ところが、クオーツ技術が爆発的に普及した1970年後半代以降、 腕時計はデジタル化されて図2のように、モジュラー型技術になってしまいました。 セイコーとシチズンが安価な駆動モジュールを大量に供給したので、時計は アジア企業など誰でも作れるようになり、腕時計の値段は劇的に下がって しまいました。今では100円ショップで腕時計が販売されているほどです。 以上のように、インテグラル型の技術の特徴は、基幹部品が容易に手に入らない、 技術の伝播スピードが遅い、製品価格はそれほど下落しない、などです。 しかし、いったんモジュール型技術に転換してしまうと、 規格化された基幹部品が大量に手に入るので 技術の伝播スピードが速く市場の拡大が早くなり、また製品価格の下落スピードも 非常に速くなります。 さて、DVDプレーヤに戻りますが、実はDVDプレーヤの中核部品の「光ピックアップ」だけが インテグラル型技術なのです。光ピックアップはレンズやプリズム、 ミラー、フィルタ、センサ等を精密にインテグラルされ規格化された部品です。 しかし、DVDプレーヤの他の部品はほとんどがモジュラー型の技術です。 もしも、アジア企業が、自分で生産できない光ピックアップを手に入れることが 出来れば、DVDプレーヤの製造は全体としてモジュラー型の技術になるのです。 逆に光ピックアップを手に入れることが出来なければ、 アジア企業は自社製のDVDプレーヤは作ることができないのです。 詳しくは後で記しますが、結論から言えば、アジア企業にとって 光ピックアップが容易に買える手段があるのです。したがって DVDプレーヤの製造はモジュラー型の技術になります。 「最初の疑問」 の答えとしては、 DVDプレーヤはモジュラー型の技術だからこそ、アジア企業が 日本企業を簡単にキャッチアップできたのです。 図3 「2番目の疑問」 :日本企業が重要特許を持っているのに、アジア企業の生産を止められない理由 特許には「独占排他権」があります。特許を持っている企業はこの 独占排他権によって、 「我々の特許を使うのをすぐには止めなさい」 「製品の製造や販売をすぐに中止しなさい」、 と他の企業に警告することが出来ます。その警告を受け入れない場合、 裁判所に訴えて勝訴すれば、国がポリス・ファンクション(警察機能)を 担ってくれます。 特許を持っている企業は、特許権をつかって相手の製造・販売を中止(差止め)させる ことが出来る上、損害賠償金も得られるかも知れません。 しかし後で記すように、このような強力な権利を日本企業がアジア企業には 行使できない決定的な理由があるのです。 さて、一般的なDVDプレーヤには、多数の企業が持っている1.000〜10.000件もの 特許が使われているといわれています。ですから、 1つの企業が他社の持っている特許を1つも使わずにDVDプレーヤを作る ことはまったく不可能です。しかし、他社の特許を無断で使って DVDプレーヤを作れば、いつ訴えられるかわかりません。 そこで、図4のように、 DVDの重要特許をたくさん持っている日本企業(S、M、T、N社)が相談して 「パテントプール」を作ります。パテントプールに入っている 企業はお互いの特許を無料ないしは安く使うことが出来ます。 パテントプールに入ることによって企業は安心してDVDプレーヤを作る ことができます。 また、パテントプールに入っていないA、B、C、D社は、パテントプールに特許使用料を 払えば光ピックアップやDVDプレーヤを作ることが出来ます。こうして 特許をほとんど持っていいないアジア企業も、 パテントプールにお金を払って、インテグラル型技術である 光ピックアップを手に入れることが出来ます。 図4 アジア企業は、自分たちで生産できない規格化された光ピックアップを買って、 DVDプレーヤの製造は全体としてモジュラー型の技術にするのです。 こうしてアジア企業は、日本企業に技術的にキャッチアップしてしまいます。 なお、パテントプールに特許料を支払っているアジア企業を、 日本企業は特許権を使って製造を止めること (使用料をもらった時点で特許権は消尽してしまうので) は法的に出来ません。 それでも、日本企業からアジア企業に、光ピックアップが流れるのを防ぐ別の 方法はありそうです。たとえば、パテントプール内で日本企業が話し合って、 「光ピックアップだけはアジア企業に売らないことにしよう」、 「アジア企業に限って特許使用料を高く取ることにしよう」 などと互いに約束すればよいと考えるかも知れません。 しかし、 これらの行為は「独占禁止法」という法律に触れてしまいます。 企業が談合して特定の企業を排除する、談合して値段を決めるのは 法律違反なのです。 また、ここには光ピックアップの値段が際限なく下がる仕組みがあります。 日本企業はみんな特許が自由に使えるので、S、M、T、N社ともに、ほとんど同じ 光ピックアップが作れます。 もし、図4のように日本の「N社」だけがアジア企業から光ピックアップを受注できなかった とします。N社が例えば中国のC社から受注を得るためには、M社よりも安い値段をC社に 提示するしかありません。なぜなら、日本の4社は同じ光ピックアップを作れるので テクノロジーの差が出ないからです。そして、4社による安値競争になります。 「2番目の疑問」 の答えは、パテントプール、そして独占禁止法があるために、 アジア企業は日本企業から「光ピックアップ」を 買うことが出来、特許をもっていなくても堂々とDVDプレーヤの生産が出来る のです。また、値段が際限なく下がるのでさっぱり 儲かりません。 「3番目の疑問」 :日本製品の製造コストが高い理由 日本企業もアジアでDVDプレーヤを生産しているので、製造コストはアジア企業と あまり変わらないはずです。同じぐらいのDVDプレーヤを生産する場合、図5の 青、緑の部分のように、 部品や部材のコストは日本企業もアジア企業もほぼ同じです。 また人件費も同じですから組立コストもほぼ同じです。 日本とアジアで最も差が付くのが研究開発費(用地取得費、研究所建設、 特許費用、製品設計費も含む)なのです。先に記したように日本企業は10年以上も かけて光ピックアップなどのDVD全般を研究開発してきました。 日本企業はこの研究開発費用を、製品に上乗せしなくては なりません。 一方のアジア企業は、日本企業が苦労して作った光ピックを買い入れるだけです。 製品設計はしますが、研究開発はしませんし、特許も出しません。 つまり、図5の赤い部分によって 製品コストの差がつくのです。確かにアジア企業はパテントプールに 特許使用料を払いますが、図5の黄色い部分のように、その額は製品原価の2〜3%です。 一方、日本企業が研究開発に投じる額は製品原価の10〜20%にもなります。 図5 このような不合理がずっと存続しているので、アジア企業は「技術は開発する ものではなく買ってくるもの」と割り切ることが出来るのです。 アジア企業はこのような事情を理解し、それを自社の利益のためにたくみに 利用しているのです。 このようなに、日本企業が研究開発をやればやるほど、特許を出せば出すほど、 アジア企業との製品コストの差がつくのです。 このジレンマを防ぐには、図6のように、パテントプールに支払う特許使用料を20%ぐらいに 上げるようにすればいいのですが、 それはパテントプール内で特許が弱い企業が大反対するために パテントプールが崩壊するかも知れません。 図6 もうひとつは、独占禁止法の運用を国内、国外とで実質的に変えるべきでしょうが、 これは長い時間が必要ですし、国際問題に発展する可能性もありますが、 ここではこれ以上詳しくは記しません。 以上、DVDプレーヤの場合を見てきました。1つは、インテグラル型技術から モジュラー型技術のトレンド、2つは、パテントプールと独占禁止法の存在、 3つは研究開発費の有無、の3つの要因によって、 日本企業は技術で勝っても商売でアジア企業に負けてしまうのです。 アジア企業はこの3つの要因を知り尽くし、儲けるためのビジネスモデルを 作って戦略的に、そして大胆に勝負を仕掛けてきます。日本企業はそれに太刀打ちできず、 シェアを落としていくばかりです。 日本企業の経営がアジア企業の経営に負けていると結論しても よいと思います。 他のアイテム、DRAM、液晶パネル、パソコン、携帯電話、あるいは二次電池、 太陽光パネルなども、個々の事情はDVDプレーヤとはやや異なります (例えばパテントプールの代わりにクロスライセンスの存在など)が、 DVDプレーヤと類似の形で、日本企業は技術で勝っても 商売でアジア企業に負けてしまうのです。 では、勝ち組のアメリカ企業、たとえばアップルコンピュータは どのようにしてアジア企業の攻勢をしのいで高収益を確保しているのでしょうか? これは次の機会に譲りたいと思います。 また、日本企業はどうすればこのジレンマから抜け出せるのか、 これも次の機会にしたいと思います。 ※ 株は自己責任で売り買いしてくださるよう お願いします。 |