(18.06.17)

ウィーン美術史美術館再訪



 3年ぶりにウィーン美術史美術館を再訪しました。 その日は今回の旅行で唯一雨の日でしたので4〜5時間も滞在し数々の作品を堪能してきました。




 写真1:ラファエロ 「草原の聖母」

 1506年に描かれたラファエロの作品。 聖母マリアと幼子イエス・キリスト、および洗礼者ヨハネが描かれています。 幼子イエスと洗礼者ヨハネが出会うという寓話的場面です。

 マリアは青いマントを赤いドレスの上に着ていて、その脚はこの絵の対角線上に伸びています。 この脚の位置は絵画に安定感を与えているど同時に、 マリアのキリストに対する母性を強調しているように思えました。 また青は教会を象徴し、赤はキリストの死を象徴しているとのことです。

 マリアはキリストを見つめ頭を左に向けていて、 幼子ヨハネが持つ小さな十字を触ろうと前に乗り出す幼子キリストを支えています。 3人の人物は手と視線により繋がっています。





  写真2:ブリューゲル「バベルの塔」

 よく知られている「バベルの塔」です。 バベルの塔は旧約聖書「創世記」に記述されていて、 神の居場所に届くような高い塔を作ろうとした人間のおごりを象徴する寓話です。 株式市場では需給だけでむちゃくちゃ上がった株を「バブルの塔」などと言います。

 この絵は特にサイズが大きいという訳ではないのですが、 圧倒的な存在感があります。 また、絵のいたるところに、 多くの働いている人、さぼっている人、威張っている人、這いつくばっている人…、 が描かれていて、 その人物の数は優に1.000人を超えています。

 スマホは優に及ばす、パソコンの画面や絵画集などの小さなサイズではそれにまったく気が付きません。 実物を見ても、そんなに多くの人が描かれているとは信じられません。 詳細へのこだわりは、狂っているとしか思えません。





   写真3:フェルメール 「絵画芸術」

 フェルメールは1665年ごろ描いたこの作品を気に入っていたらしく、 生涯売ることなく所有し続けたそうです。 描かれている芸術家はフェルメール自身、モデルの女性は彼の娘です。

 この絵を見て真っ先に印象づけられるのは、女性の薄いブルーの衣服です。 窓から差し込む光(フェルメールの採光!)によって浮かび上がるブルーの鮮やかなこと! しっかり目の奥に焼き付けてきました。 ホンモノを見る醍醐味です。

 また壁面の地図、シャンデリア、トランペットなどの意味や、 モデルにされる娘のはにかみだとか、父への信頼感だとか、 見るべきとこがたくさんあり、いつまでも見ていても飽きません。





 写真4:レンブラント「大きな自画像」

 レンブラント46才の頃の自画像です。 この頃レンブラントは婚約不履行で訴えられた上、経済的にも困窮し始めました。 (その数年後破産) しかし、その目はまだ精悍で姿勢も堂々としているように見えました。

 着ている服がぼろいとの指摘もありますが、 これは仕事服できれいなはずがありません。 眉間にある深いしわが後世のレンブラントを暗示しているように見えますが、 それは後講釈というものです。





 写真5:アーヘン 「ルドルフ二世」

 小さい絵ですが存在感があり、面構えがよいと思いました。 1552年ケルン生まれのアーヘンは、 ヴェネツィア等で修行しドイツに戻ったところ、 1592年に神聖ローマ皇帝ルドルフ2世の宮廷画家に任命され後にプラハへ移りました。

 実はこの絵は、 今年2018年はじめには日本に出張していました。 「ルネサンス伝説の皇帝・ルドルフ二世の驚異の世界展」が渋谷・Bunkamuraで開催されたからです。 ご覧になった方もいるでしょう。

 この皇帝はウィーンではなくプラハ城に住み、 政治よりも美術品の大コレクターとして著名です。 古代やルネサンス期の貴重な絵画を買い集め、 当時「この世で最も偉大な芸術庇護者」とも呼ばれました。

 またルドルフ二世は芸術家や科学者(錬金術師も含む)と交わることの方が好きだったと伝えられています。 そのため、プラハにはティコ・ブラーエやヨハネス・ケプラーなどが居住して、 近代科学の基礎を固める仕事をしました。 この業績は後に続くニュートンによって決定的な「科学」までに高められ、 その流れは現代に続いています。







 写真6:バトーニ 「ヨーゼフ二世とレオポルド」

 ヨーゼフ二世(右)とレオポルドはマリア・テレジアの子供で、 マリー・アントワネット(マリー・アントニア)の兄達です。 ヨーゼフ二世はモーツァルトがウィーンに来た頃の皇帝であり、 レオポルドはモーツァルトがウィーンで没した時の皇帝です。

 この写真6は、 写真5のルドルフ二世の頃からは200年近く後の絵画なのですが、 両者はあまりにも違います。 ルドルフ二世はクセのある頑固おやじに見え、 ヨーゼフ二世とレオポルドは良家の「おぼっちゃま」達に見えます。 (実際にヨーロッパ随一の名家のお坊ちゃま達なのですが)

 ルドルフ二世は、以後にスペインやイタリア、あるいは南米やアジアの植民地を獲得して世界中から富を集め、 ハプスブルグ家が絶頂を極める前の皇帝であり、 ヨーゼフ二世とレオポルドは大帝国がすでに長い衰退期に入った時代の皇帝です。

 伸び行くオーナー企業の後継者と、 大企業になってしまった後の後継者。 時代やスケールの違いはあっても頷けるかなと思います。



 

 

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