(21.05.06)

DYLAN SUMMARY(その3:2001~2020)







 ボブ・ディランの生涯の軌跡をアルバムを通じて追うDYLAN‘SUMMARYその3は、 2001年の”Love and Theft”(ラブ・アンド・セフト)から、 2020年の”Rough and Rowdy Way”(ラフ・アンド・ローディ・ウエイ) までのほぼ20年間です。 ディランの年齢では60才から79才にあたります。 この間、新曲をリリースする間隔は次第に長くなってきましたが、 自作の曲を歌った5つのアルバムは珠玉の出来栄えです。

 また特筆するべきは2016年のノーベル文学賞受賞でしょう。 ロックアーティストのみならずすべての音楽家でこの賞を受賞するのはディランが最初です。 ディランの詩はロマン・ロラン、イェイツ、ベルクソン、トーマス・マン、パール・バック、 ヘルマン・ヘッセ、アンドレ・ジッド、T・S・エリオット、バーバランド・ラッセル、 ヘミングウェイ、カミュ、スタインベック、サルトル、川端康成などと並び称される「文学」なのです。

 10代からディランを聞き読み続けた私はとても誇りに思います。



 さて、DYLAN SUMMARYその3を書くに先立って、2001年から2020年の間に出た アルバムをすべて聞きなおしてみました。 2001年、私は単身赴任中でした。 上の子は思春期にさしかかっておりこの時期に父親が不在だったことはどんな影響があったのでしょうか。 そして2020年、下の子さえも30歳が見えるところにいます。 時の流れは速いものです。



 ここではディランのアルバムをほぼ発売順に並べました。 しかしディランの場合、 発売順と録音順が随分異なるアルバムがあり、 また順番を多少細工した方が、 流れというか変貌の激しさがわかりやすいようです。 また、アルバムタイトルの後につけた★は、以下のような意味です。

★★★ …ポピュラー音楽史に残る極上の作品

★★   …とても素晴らしい最良の作品

    …ファンならばぜひ聞きたい作品

    …捨て難い曲もあり

なし  …う~ん、ちょっと、これはねえ





2001年 ”Love And Theft” (ラブ・アンド゙・セフト)★ 画像1左

 2001年9月11日、 同時多発テロ当日に発売された”Love And Theft”ですが、 不吉な予感どころか全体としてメッセージ色が少ないアルバムだと思います。 T3”Summer Dyas”はディランがフォークソングを始める前軽妙なロックンロールです。 T4”Bye and Bye”、T5”Lonsome Day Blues”など古くてやや荒っぽく力強いブルースです。 トラディショナルな曲からの引用も多いです。

 それどころかT9”Honest with me”は”Hihgway 61 Revisited”のパロディを匂わせています。 他にもロカビリーやフォークなどアメリカの過去を掘り起こすようなディラン「オリジナル」の曲が多いです。 ディランはそれを楽しんでいます。





2006年 ”Modern Times” (モダン・タイムス)★ 画像1中左

 アルバムチャートで英米とも1位、 セールス的にも久々の大成功となったアルバムです。 T3”Rollin' and Tumblin'”、T4”When the Deal Goes Down”、 T6””Warkingman's Blues #2”など前作同様の古いブルースやロックを思わせる曲もあります。 しかしそれ以外にT2”Spirit on the Water”のような最高のラブソングや、 ドラムの重いビートに乗った傑作バラッドT8”Nettie Moore”が印象的です。

 また、T10”Ain't Talkin'”のように後のアルバム”Rough and Rordy Ways”を思わせるシンプルで強い曲もあります。 ヴァイオリンが入っているのもいいです。



2009年 ”Together Through Life” (トゥゲザー・スルー・ライフ)★★ 画像1中右

 前々作”Love And Theft”から次作”Tempest”までの4枚はどれも力の入った傑作だと思います。 その中でどれが一番好きかと問われれば私はこの”Together Through Life”をあげます。 ベースが効いている上に全体的にアコーディオンがフーチヤーされ、 とても土臭いアルバム作りが大成功をおさめています。 このような試みは1980年代にもされていましたがこのアルバムにはかないません。

 アコーディオンが活躍する実に味わい深いバラッド、 T4”If you ever go to Houston”(ヒューストンに行ったなら)、 シカゴブルース風のT6”Jolene”(ジョリーン)が印象的です。



Well you're coming down High Street         ハイストリートを君はくる …①
Walking in the sun                     日差しを浴びて
You make a dead man rise and holler she's the one 死者を蘇らせ「彼女は救世主」と叫ばせる …②
Jolene Jolene                        ジョリーン、ジョリーン
Baby I am the king and you're the queen       俺はキング、君はクイーン …③



①イギリスに”Kensington High Street”という地名があるが関係ないか?
②”she's the one”は「彼女は俺の女」ともとれますが、死者を蘇らせるならやはり「救世主」じゃないかと。
③1960年代にジョーン・バエズがディランに「私がフォークのクイーンなたあなたはロックのキングね」と言ったそうです。



2012年 ”Tempest” (テンペスト)★ 画像1右

 前作から6年が経過、ディランは70歳を過ぎています。 アルバムは軽快なT1”Duquesne Whistle”ではじまります。 T6”Scarlet Town”は丁寧なヴォーカルで奏でる物悲しくて神秘的な曲です。

If love is a sin, then beauty is a crime           愛が罪なら美は犯罪
All things are beautiful, in their time           全てには見るべき時がある
The black and the white, the yellow and the brown   黒、白、黄、茶
It's all right there in front of you in Scarlet Town    なんでもあるよ、スカーレットタウン



 マディ・ウォーターズのマニッシュ・ボーイとまったく同じリズムとメロディーのT7”Early Roman Kings”、 しかし、その詩はトラディショナルブルースのようではなくもっと複雑です。 「マニッシュ・ボーイの再構築」ともいうべきです。 さてこのアルバム、ラスト3曲がちょっと弱いかなと思います。





2009年 ”Christmas In The Heart” (クリスマス・イン・ザ・ハート) 画像2左

 ”Together Through Life”と”Tempest”との間にリリースされました。 なぜ今クリスマスソングなの?







2015年 ”Shadows In The Night” (シャドウズ・イン・ザ・ナイト) 画像2中左

 ディランは1970年代に自作の曲をほとんど含まない”Self Portrait”および”Dylan”をリリースしたことがありました。 また1990年代にもトラディショナルなアコースティックフォークソング集”Good As I Been to You”と”World Gone Wrong ”をリリースしました。 今回も”Triplicate”まで4枚「それ」が続きます。 なお、アルバムタイトルは上記 ”Christmas In The Heart”と韻を踏んでいますが作品内容には関係ないようです。

2016年 ”Fallen Angels” (墜ちた天使) 画像2中右

 う~ん、これは。もう何も言えない。

2017年 ”Triplicate” (トリプリケイト) 画像2右

 う~~~ん、これも。何も言えない。後でじっくりと聞いたら追加で書こう。





2020年 ”Rough and Rordy Ways”(ラフ・アンド・ローディ・ウェイ)★★★ 画像3

 8年ぶりのアルバム、オリジナルとしてはあの”Blonde on Blonde”以来の2枚組です。 とにかくこれは「凄い!」としか言いようがありません。 また、このアルバムはディランの過去のどのアルバムとも似ていない新たなディランミュージックだと思います。 79歳にしてディランはさらに激しく変貌して新たな金字塔を打ち立てました。







 トップのT1”I contain multitudes”の内省的な曲に魅せられます。つぶやくようなディランのボーカル、 控えめながらきわめて密度の濃い丁寧なバックサウンド、 一聴してすぐにこのアルバムがただものではないことが分かります。

 T2”False Prophet”も凄いです。 腹の底から絞り出すようなドス黒いディランのボーカルは出色です。

Hello stranger             ハロー よそ者よ
A long goodbye            久しぶりだ
You ruled the land          ここのルールを決めたのかい
But so do I               じゃ俺もそうするよ
You lost your mule          あんたはラバをなくしたし
You got a poison brain       脳が毒されてしまった
I'll marry you to a ball and chain 今にボールやチェーンと結婚させてやるからな

You know darlin'           わかっているよね、ダーリン
The kind of life that I live      どんな人生を生きているのか
When your smile meets my smile something's got to give 互いの微笑みで譲り合えるさ
I ain't no false prophet        俺は偽の預言者じゃない
No I'm nobody's bride        誰の花嫁でもない
Can't remember when I was born 生まれた時は覚えてないし
And I forgot when I died       いつ死んだかも忘れたよ



 これらの曲に限らず、 このアルバム全曲ともに耳に残るのです。 T3”My Own Version of You”、 T4”I've Made Up My Mind to Give Myself to You” 、 T5”Black Rider”、 T6”Goodbye Jimmy Reed”、 T7”Mother of Muses” いずれも一聴控えめながらすべて我が強く心に残る曲が並んでいます。

 CD1の最後を飾るのが対照的な2曲、T8”Crossing the Rubicon”とT9”Key West”です。

What are these dark days I see?  陰鬱な日々よ
In this world so badly bent     ひどく歪められた世界よ
I cannot redeem the time      時は取り戻せない
The time so idly spent        無駄に過ぎてしまった
How much longer can it last?    いつまで続くのだろう?
How long can it go on?        いつまで持ちこたえられるか?
I embrace my love           愛する人を抱きしめ
Put down my hair           髪をほどいて
And I crossed the Rubicon      俺はルビコン川を渡った



Key West is the gateway key    キーウェストは入口への鍵
To innocence and purity       無垢や純粋へと
Key West, Key West is the enchanted land キーウェスト、キーウェストよ、魅惑に彩られた世界



 それにしても、

On that pirate radio station Coming out of Luxembourg and Budapest 遠くルクセンブルクとかブダペストから届く海賊ラジオステーションで

などという豊かなイメージの詩、どうしたら書けるんでしょうね? だからノーベル文学賞なのですね、きっと。 深みのある渋いヴォーカル、いつまでも続いてほしい優しいアコーディオンの音、”Key West”はいい曲です。



 最後に、CD2はだだ1曲のみ、それも17分におよぶ大作”Murder Most Foul”。 これは歌というよりは朴訥な語りかけです。 長い歌詞に織り込まれた多くの固有名詞が穏やかな川の流れように揺蕩っていきます。

 私はまだこの曲だけはよく分かりません。 故ケネディ大統領とどのような関係するかも分かりません。 もう少し聞きこみたいと思います。







残りのメニュー:

1998年 The Bootleg Series Vol.4 Live 1966: The "Royal Albert Hall" Concert
2002年 The Bootleg Series Vol.5 Live 1975:The Rolling Thunder Revue
2004年 The Bootleg Series Vol.6 Live 1964:Concert At Philharmonic Hall
2005年 The Bootleg Series Vol.7 No Directions Home
2008年 The Bootleg Series Vol.8 Tell Tale Sings
2010年 The Bootleg Series Vol.9 The Witmark Demos:1962-1964
2013年 The Bootleg Series Vol.10 Another Self Portrait
2014年 The Bootleg Series Vol.11 The Basement Tape Raw
2015年 The Bootleg Series Vol.12 The Cutting Edge 1965-1966
2017年 The Bootleg Series Vol.13 Trouble No More
2018年 The Bootleg Series Vol.14 More Blood More Tracks
2019年 The Bootleg Series Vol.15 Travelin' Thru


2001年 Live 1961-2000
2003年 Masked And Anonymous Music
2007年 Dylan The Best
2011年 IN Concert BRANDEIS UNIVERSITY 1963
2018年 Live 1962-1966
2020年 THE ALLEN GINSBERG TAPES 1965
2021年 1970

1999年 DYLAN ALIVE Vol.1
1999年 DYLAN ALIVE Vol.2
2000年 DYLAN ALIVE Vol.3

1988年 Traveling Wilburys Vol. 1
1990年 Traveling Wilburys Vol. 3

2003年 Transmissions
2005年 Re-Transmissions
2018年 1974 Tour Live
2019年 Rolling Thunder Revue 1975

他 海賊版

LIVE ON AIR VOL.1
THE DYLAN'S ROOT
TWELVE CURSES
PARANOID BLUES
ACOUSTIC TROUBADOUR
GASLIGHT TAPES
THE BOB DYLAN/SONGBOOK
LIVE IN NEW YORK 1963
LIVE IN NEWPORT 1965
ADELPHI THEATRE DUBLIN MAY 5,1966
ROYAL ALBERT HALL MAY 26,1966
LIVE IN ENGLAND 1966
BOB DYLAN MEETS GEORGE HARRISON
AFTER THE CRASH VOL.2
MOVING VIOLATION
THE GENUINE BASEMENT TAPES VOL.4
THE GENUINE BASEMENT TAPES VOL.5
IN SEARCH OF RELIEF
THE HURRICANE CARTER BENEFIT
LIVE IN COLORADO
SHELTER FROM A HARD RAIN 1976
BROADCAST RARITIES
SUPER CONCERT SERIES BOB DYLAN
LIVE ON AIR
DUELLING BANJOS
NO MERCY






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