(07.09.22)


三島由紀夫全集全35巻 + 補巻 (丸背革装 天金装) 三島由紀夫 著  新潮社 1973.5 限定1000部 初版







 彼岸になってもまだ夏のように暑いのですが、いよいよ「読書の秋」 がやってきました。 先日私は、神保町にて写真の三島由紀夫全集を手に入れ、今年はこれを読むことに しました。小説を読もうと思ったのはかなり久しぶりなのですが、この浩瀚な全集、 いったい何年で全部読めるのでしょうか?

 さて、三島由紀夫は1925年生まれですから、今も存命ならば82才ということになります。 しかし、御存知のように、1970年、45才の時に自衛隊阿佐ヶ谷駐屯地で割腹 自殺を遂げてしまいました。「その日」のことは今でも鮮やかに覚えています。 夕方、職員室で先生方が大騒ぎ していました。「りっぱだ」という先生と、「バカなことをするものだ」という 先生がいたのも覚えていますが、まだ幼かった私は、その意味さえよくわかりません でした。



 実は、これまで三島文学を私はほとんど読んでいません。ただ、 三島はとても著名な作家なので、「仮面の告白」などには 学生の頃にいちおうはトライしています。しかし、 三島独特の美意識と世界観に、若い私はまったくついていけません でした。要するに、わからなかったのです。 三島は「ストレート」ではないこともありました。

 しかし、先日たまたま「仮面の告白」や「金閣寺」などにトライしてみたら、 これが実によくわかるのです。三島の屈折した願望も実にいいし、 金閣寺が燃えなければならない理由も、 生まれ変わるか死ぬか、という考えも私にはよく分かるように なっていました。いつの間にか重ねた年の功でしょうか。

 あるいは、三島が40才を過ぎてからボディビルを始めた気持も、 私にはよくわかります。また、三島が45才で死ななければならなかった理由にも 納得しますし、天皇制を賛美し共産主義を憎んだ理由も 分かります。そこには一貫した三島独自の美学に貫かれています。



 ところで、この全集は三島が亡くなって2年半後の1973年5月から、 第10巻(「金閣寺」を含む)を皮切りに毎月1冊 つづ、3年間にわたって配本されたようです。今回私が手にしているのは、 限定1.000部の革装(背と裏表が革)天金(本の上部分に金がうってある) の豪華本です。写真のように、35年を経た今でも、美しい本のままです。 (しかし、上には上があるもので、 さらに豪華な限定200部の三島由紀夫全集もあります)

 この全集はどれも一冊あたりの定価は15.000円と記されています。 1973年(昭和48年)大卒初任給は約65.000円でした。今は210.000円ぐらい ですので、当時の15.000円は今の50.000円ぐらいにあたるでしょうか。 当時一冊あたり15.000円、しかも36巻の全集を買える人は今よりずっと少なかった でしょう。

 なおこの古本は、全集の配本が終わった後に配本された「月報」が 欠落しています。そのために、豪華本といっても ムチャクチャ高価なわけではありませんが、 まあ、それなりの値段でした。美しいものはいつでも高価です。



 ところで、三島の小説は新潮社の文庫本で今も35冊出ています。しかし 私は、文庫本ではなく、わざわざ高くて重い本を買いました。
それに関して私はこう思います。

・読書はある程度贅沢をした方がいい。なぜならば読書は趣味だから
 (逆に、実用本はコストパフォーマンスだけを考えるとよい)
・ある年齢を過ぎれば、文庫本は似合わない
 (場合によっては文庫本を読む姿は惨めに見える、人生が淋しく思える)
・革は手触りがよく、また時を経ても美しいままなので好ましい
 (文庫本は注意して保存してもやがて変色する)
・本はその所有者とともに成長していくと思うので、本は借りずに所有するべき
 (ごく若いときを除いて図書館は利用するべきではない)

 「そんなことはない、本は内容が最も大切、装丁などどうでもいい」 という意見があります。あるいは、
「図書館から借りた本だろうと、自分の 本だろうと、その読みかたの方が重要」という意見もあるでしょう。
それは正論です。そして、とてもつまらない正論です。
そう考える方の年齢がもし20才ならば、 私は微笑んで「そうだね、でもいつかわかるよ」っていいます。しかし、もし、40才を過ぎていたなら、 私はその方を尊敬できないでしょう。その間の年齢は、ケースバイケースで すね。







(07.08.18)


図説 世界の歴史 全10巻 J.M.ロバーツ 著  創元社 2002.12  初版


1巻:歴史の始まりと古代文明
2巻:古代ギリシアとアジアの文明
3巻:古代ローマとキリスト教
4巻:ビザンツ帝国とイスラーム文明
5巻:東アジアと中世ヨーロッパ
6巻:近代ヨーロッパ文明の成立
7巻:革命の時代
8巻:帝国の時代
9巻:第二次世界大戦と戦後の世界
10巻:新たなる世界秩序を求めて




 図説 世界の歴史(The Illustrated History of the World)の J.M.ロバーツ(Roberts)氏は、1928年生まれの歴史 学者です。図説 世界の歴史は氏の代表的な著作で、1976年に刊行されて以来、 今日まで改訂されつづけています。

 図説 世界の歴史はは全10巻からなり、人類の起源から2001年のアメリカ 同時多発テロまでの歴史が記されています。また、 「図説(Illustrated)」とあるように、ページの半分近くが写真や絵によって 構成されていて、歴史書と言ってもカラフルで楽しい本です。

 著者の歴史感はヨーロッパ、特に母国イギリスを中心になっているのは、 やむを得ないと思います。しかし、意外にも日本に関する記述も多く (監修の時点で加えられたのかもしれません)あります。 また、日本に関しては肯定的な記述が多いように感じました。

 また、この歴史書の特徴は、種々の重要な事件の解釈を、 なるべくその時代に遡って考えていることでしょう。多くの歴史書では その本が書かれた時代の考え方や価値観で、過去の別の時代を見ていることが ほとんどのように思います。その方が史観を透徹させやすいのです。 本書のように、 過去の時代に遡って、その時代の価値観をもって考えるのは、 より難しい作業ではないかと思います。

 また、現代の目だけで歴史を見ると、歴史に対して偏見に満ちた解釈 をしがちです。さらにそれは、「死んだ歴史」であって読んでいてもさっぱり楽しく ないことも多いと思います。歴史には現代の目で見ると矛盾や混乱も多いのですが、 その時代なりに必然性があった出来事も多いのです。 それをありのままに記した歴史のほうが「生きた歴史」になり、 読んでいても楽しいのです。



 ところで私は、これまで世界の通史に目を通したことはまったく ありませんでした。しかし、特に興味のある時代と国、例えば:
・古代ローマ帝国の誕生から西ローマ帝国の滅亡まで
・ハプスブルグ帝国、特に18世紀と19世紀
・第二次世界大戦前後のドイツ、ソ連
・中国の共産主義政権誕生
・第二次世界大戦後から現在までの現代史

 このあたりだけは、歴史書や一般書、あるいは小説などを よく読んでいました。しかし、その他の大部分の空白には、いたい何が 起こっているのかよくわかりませんでした。

 また、先日まで日経新聞に連載されていた、堺屋太一氏の「世界を創った男」 を読む際のことです。チンギス・ハンと同じ時代にヨーロッパで 何が起こっていたんだろう?と調べながら読んだら、とても楽しく 「世界を創った男」を読むことができたのです。これが「図説 世界の歴史」 を読もうとおもったきっかけです。



 では最後に、歴史を学ぶ意義をまとめてみましょう。 単に面白いから、というのが一番よいのでしょうが、その他に:

・未来は過去の繰り返しに過ぎないから、未来を予想するためには過去を 学べはよい。
・世界で今起こっている種々の事件などは、すべて過去に関係する。 今をわかるためには過去がわかる必要がある。
・フィクション、ノンフィクション、音楽、映画、その他の芸術は、 歴史を知っているほうが知らないよりも、さらに楽しめる。



 ※出版文化の発展のために、このようなよい本は多少値が張っても (10巻で24.000円です。先週金曜日の損失で10巻×20組も買えた) 書店で買うようにしましょう。







(07.07.21)


富裕層の財布 三浦 展 著  プレジデント社 2007.07 初版

格差社会で日本は勝つ  鈴木 真実哉 著  幸福の科学出版社 2007.03 初版







 「富裕層の財布」の三浦展氏は、先の著書「下流社会」により、広く世に 知られるようになりました。 このコーナーでも以前取上げた「下流社会」は日本人の総中流が崩れ、 下流社会が形成されつつあることを、最初に一般に示した著作です。そして、 三浦氏はこの「富裕層の財布」において、「下流社会」とは対極の富裕層に 関してリポートしています。

 この本では、富裕層向け雑誌のアンケートを集計したデータを駆使して、 現代の富裕層に関してその行動様式や意識を解明しています。 著者は富裕層を4つのタイプに分けて、それぞれの特徴を浮き彫りにしています。 また富裕層とフリーターの意識の違いなども興味深いと思います。

 ところで、富裕層の人たちは、富裕層になったので、そのような行動様式や 意識を持つようになったのでしょうか?それとも、まだ富裕層とは言え ないうちから、彼らは富裕層に近い行動様式や意識を持って いたのでしょうか?

 この問題に関しては、私は後者であると考えています。
例えば、話題のものを買うために、あるいは話題の映画やスポーツを観るために、 長い行列に時には数時間も並ぶ、などということは富裕層はまずしないでしょう。 第一に、それほど多くの人が「よい」と思うものが、自分にとって本当に 「よい」はずがない、と富裕層の人は考えるでしょう。 それ以上に、行列に並んでいる時間が惜しいと考えるはずです。



 もっと身近な例ですが、
遠方への出張の時、新幹線の指定席料金を節約するために、必ず自由席に乗ろうと する人がかなりいます。御存知のように、朝の混雑している時間帯では、 自由席は発車の少なくても30分前に列に並ばなくてはなりません。 就学旅行などの団体にぶつかると、それでも立ち席になることも あります。

 自由席をゲットするには、夏の暑い中、あるいは冬の寒い中、駅に並んだあげく、 数時間も立ち続けるリスクがあります。 これは節約などという行為ではありません。わずかばかりのお金と引き換えに、 時間を有効に使えない負け組みの行為であると思います。

 このようなケースでは、富裕層の人は、あるいは将来富裕層に成り上がる人ならば、 あらかじめ指定席を確保しておくか、あるいはもっと快適な グリーン車に行列することなく乗ると思います。そしてその時間、生産的な仕事するか、 あるいは有意義な思考をすることも出来ます。 その結果、その行為なり思考が、富裕層の人に次の富をもたらします。

 このように、富裕層はお金と時間のバランス感覚にたいへん優れて いる人々であるように思えます。 たとえ今富裕層とは言えない人でも、富裕層的な思考と行動をできるだけ するようにすれば、近い将来富裕層に入ることができると、 私は考えています。



 「格差社会で日本は勝つ」の鈴木真実哉氏は、1954年生まれの大学の先生です。 まず、この本の特徴は二つあります。
第一は、「なぜ格差社会は肯定されるべきなのか」が、とてもわかりやすく書かれて います。これほどわかりやすい文脈はめったにありません。私はこの本を、 格差社会に反対する国会議員に贈りたいほどです。

 第二の特徴は、 経済学の歴史や、国家がとった経済戦略の意義がとてもわかりやすく書かれて いることです。アダム・スミス、リカードなど、理系の人にとっては 受験科目にもない「世界史」のある1ページに書いてあった、ぐらいのこと しか知りません。しかし、この本ではそのような歴史的経済学者が 現代に与えている影響を実にわかりやすく述べられています。

 私は著者と同様、「格差社会」を積極的に肯定したいと思います。 ただし、むやみに差をつければいいという意見でもありません。 特に、格差の犠牲にしてはいけない人としては、まだ一人前ではない子供、 頑張りたくても頑張れない障害者、病気になった人、 もうチャレンジできない老人、などでしょう。

 特に子供には、出来るだけ平等なチャンスを与えるシステムを 公的に作ることは大切です。 その結果、その子供が大人になる過程で、好んで「下流社会」に属したのなら、 それはもう関与するところではありません。