(19.12.01)


ブロックチェーン という世界革命  神里達博 著 川出書房新社  2019年02月05日 初版




 2018年初頭、壮絶な仮想通貨バブルが崩壊しました。 しかし、仮想通貨の根幹テクノロジーであるブロックチェーンの注目度はその頃から逆に増してきたように思います。 ブロックチェーンで未来がどう変わるのか、その可能性は?



                        






 インターネットが普及しはじめた1990年代前半、 その根幹テクノロジーであるWWW(World Wide Web)は中央集権的な世界を破壊するのではないかと言われていました。 その理由として、WWWが中心がない分散的なテクノロジーだったからです。

 それから約四半世紀を経て現実はどうでしょうか? 確かに、今や中学生の手にさえコンピュータが乗るようになりましたし、 それによって世界中のどこにもリアルタイムで情報をやりとり可能になりました。

 しかしその一方、中央集権的な国家は一向になくならないしむしろ強化されているようにも見えます。 また、GAFAに代表される独占的な超大企業が富を席巻し、 IT産業はむしろ中央集権化しています。 かつてWWWが夢想したようにはなっていません、



 さて、ブロックチェーンもやはり中心がない分散的なテクノロジーで、 中央集権的な世界を破壊するのではないかと言われています。 わかりやすい例として、 仮想通貨バブルの頃を思い出してみましょう。

 ビットコインをはじめとする仮想通貨は急激な勢いで膨張しました。 その過程でその価格は10倍、100倍、1000倍と増大して多くの「億り人」を生み出しました。 このままの膨張が続けば仮想通貨は各国の中央銀行を脅かすようになるのではないか、と言われていました。

 仮想通貨は中央銀行が発行する通貨とは異なり信用の裏付けがありません。 その代わりブロックチェーンのテクノロジー自体に信用の源泉があります。 このような通貨は世界の経済的な秩序を壊すのではないかと警戒されたのです。

 そして各国政府の強力な規制に加え、 仮想通貨の作り(マイニング)手による流出事件などの不祥事が多発してバブルは崩壊しました。 とりあえず第一幕は終了、間奏曲が奏でられているのが2019年末の現在の状況です。



 本書「ブロックチェーンという世界革命」によれば、 信用とか契約といった概念自体の変化が起こり、 それに伴い資金の調達方法の変化などが起こる可能性があるとのことです。 また、ブロックチェーはシェアエコノミーとの相性がよく、 さらには地球環境問題への貢献もするだろうとのことです。

 ブロックチェーン技術は「閾が低い」ことも普及が加速する要因だそうです。 より詳しくは本書をお読みください。



 個人投資家の目線としては近い将来実現しそうな、 ブロックチェーンを用いたゲーム、電子カルテ、役所の公文書、 裁判の記録などに注目しています。





 



(19.11.04)


小澤征爾 覇者の法則  中野 雄 著 文春新書  2014年8月20日 初版




 日本が生んだ唯一の世界トップクラスの指揮者、小澤征爾。 旧満州国に生まれ、幼くして祖国を追われ、人より少し遅れて音楽家を志して斎藤秀雄の弟子となり、 ついには世界最高峰のウィーン国立歌劇場監督に上り詰めました。 絵に描いたような成功物語にはオザワマジックが隠されていました。



                        






 小澤征爾率いるサイトウ・キネン・オーケストラの古いテープ(FM放送からのエアチェック!)を2つ聞いてみました。 いずれもライブ録音で大きな編集がされていないと思われます。 まず1つは1990年8月7日、ザルツブルグ音楽祭におけるブラームス交響曲1番ハ短調。 もう1つは1989年9月14日、ベルリン・フィルハーモニーに乗り込んで演奏したブラームス交響曲4番ホ短調です。



 ブラームスのオーケストレーションは渋くまた分厚いのが特徴です。 しかし、上記の演奏は「ブラームス宅のシーツを完璧に洗濯、漂泊して、まばゆい陽光が降り注ぐ初夏の薫風で乾かしている」ような音楽です。 音楽は流麗かつエネルギッシュに流れ, 肯定的で曖昧さはまったくありません。

 具体的な特徴として、
@音の立ち上がりがとても早い、
A1つの音が長く聞こえる、
B響きに混濁感がなくクリアである、
ということでしょうか。

 @により音楽が躍動的に聞こえます。小澤氏の運動神経あるいはリズム感の良さに根源があるような気がします。 Aは音の立ち上がりが早いゆえに1つの音がより長く聞こえ、その結果音楽にある種の余裕が感じられます。

 Bですが、例えば交響曲1番ハ短調の序奏で第一、第二ヴァイオリン、チェロの分厚い響きの中から、 これらとは異なる動きをするヴィオラがはっきりと聞こえてくるなどはこの指揮者ならではです。 音楽の縦の線をきっちり合わせるテクニックをもっているのでしょう。



 小澤征爾氏と銀河の端と端ほど異なるともいうべき巨匠は、かのW・フルトヴェングラーでしょう。 先のブラームス交響曲4番ホ短調、1949年6月10日のウィスバーデンにおけるベルリンフィルとのライブを聞いてみました。

 すすり泣くように、引きずるように始まる冒頭からして小澤=サイトウ・キネンとは全然違います。 テンポは呼吸するように微妙に変化し、また時には激しく動きます。 例えば、再現部における第一主題は提示部のそれより倍も速く、それゆえオーケストラの音は混濁しています。

 フルトヴェングラーはそのような劇的な表現を用いて悲しみや切なさや諦観、 あるいはゲルマン的な感情を表現しようとします。 そのためには多少のキズは恐れませんでした。 これらは19世紀に隆盛を極めたロマン派の最後の流れとも言うべきでしょうが、 そこがフルトヴェングラーのファンにはたまらないところです。



 しかし、時代はフルトヴェングラーよりも小澤征爾の方に微笑んでいます。 世界はグローバル化が進み、世界のオーケストラにも均質化の波がやってきました。 人によって価値観が異なる感情などということより、 心地よさやヴィルトゥオジティーが求められるようになりました。

 演奏技術の最低線が著しく向上し、演奏家はそこまで行くのがせいいっぱいなのでしょう。 指揮者はある感情に聴衆を誘導することは止め、 というよりもできなくなってしまいました。 それを嘆かわしいと感じるか、現代的でよいと思うかは人それぞれです。





 さて、「小澤征爾 覇者の法則」では、 数々の偶然を幸運とし、多くのピンチをチャンスに反転させ、無謀さえも成功に結びつける「覇者の法則」が書かれています。

・ピアニストとしての挫折 → 指揮者へ転向
・女子高に併設された音楽科にたった一人の男子学生として飛び込む → 斎藤秀雄氏の一番弟子になる
・何の具体的なスケジュールもないのにフランスへ渡る → ブザンゾンコンクールで優勝
・NHK交響楽団に演奏拒否される → 欧米で生きて行くことを決意
・斎藤秀雄氏没後10周年で急ごしらえのオーケストラを指揮 → サイトウ・キネン・オーケストラに発展

 そして特筆するべきは、まだ無名に近い小澤征爾を応援・援助してくれたキラ星のような人々です。

・江戸英雄(三井不動産社長)
・ヘルベルト・フォン・カラヤン
・レナード・バーンスタイン
・シャルル・ミンシュ
・井上靖
・石原新太郎
・大江健三郎
・ロナルド・ウィールフォード(コロンビア・レコード)



 小澤征爾をもっと聞いてみたくなりました。 一読を薦めます。





 



(19.10.20)


2045年問題  松田卓也著 廣済堂新書  2015年7月20日 第6刷




 コンピュータが爆発的に進化して、いずれは人間による制御が不能になり勝手に暴走するのではないかと言われています。 その時期は2045年あたりだろうと予測されます。 2045年といえば今からたったの26年後、 おそらく私はヨボヨボになってまだ生きているだろうと思います。



                    






 1980年代、私は社会人生活を半導体集積回路(LSI)を設計するエンジニアとして出発しました。 仕事の大まかなプロセスは、

 @仕様決定 
→A回路設計 
→Bレイアウト設計 
→(試作製造)
→C評価 

→Cの結果を受けてAまたはBに戻る 
→C 

→Cの結果を受けてAまたはBに戻る 
 … …

という具合です。



 この中で、最も時間がかかるのがBレイアウト設計プロセスです。 1万ゲート(トランジスタ数)程度のLSIを、 プロッターと言われる旧式コンピュータに手作業で入力しながらレイアウトすると一人で一か月程度の時間を要するのでした。 それは複雑なパズルのようで、とても根気のいる作業でした。

 そしてま80年代半ば過ぎ、そのプロセスに当時では最新のコンピュータとソフトウエアが導入されました。 その最新のコンピュータを使えば、金曜日の午後に始めたレイアウト設計プロセスが土日を挟んで月曜日には完成しているのでした。

 人間が1か月もかかる作業をコンピュータを使えばわずか3日でできるようになったのです。 しかもコンピュータは、文句も言わず土日稼働するのです。 エンジニアは根気のいる長時間の手作業から全面的に解放されたのでした。



 その後私は転職して電子機器を設計するようになりました。 1990年代初めのことです。 ここではFPGAという半導体を使った回路設計をしました。 すると上記と同じ回路規模のFPGAのレイアウト設計はわずか10〜15分で可能になっていました。 コンピュータの高速化やアルゴリズムの発達、FPGAの構造の工夫による効率化によるものです。

 高速化はさらに推し進められ、1990年代後半にはわずか10〜15秒で作業は終わるようになりました。 この16〜17年で、10秒/1か月(8時間/日×20日) ≒ 1/50.000 →約50.000(5万)倍も高速化したことになります。

 2019年現在ではさらに10.000倍(100Mゲート)もの回路規模のFPGAのレイアウトが10〜15秒で出来ることでしょう。 この37〜38年の期間で、50.000×10.000 = 500.000.000(5億)倍の高速化です。

   松田卓也著「2045年問題」にも、物理学者である著者が仕事で使うコンピュータはこの40年間で約20億倍高速化したと書かれていますので、 私の経験ともほぼ一致しています。



 このようなコンピュータの進化は今後さらに加速すると、著者は予想しています。 そしてやがてコンピュータは意思を持つようになり、人類全体の能力を超えてしまいます。 そうなるのが2045年ごろと著者は予想しています。

 2045年以後コンピュータは人間の命令に従わなくなり、最悪のケースでは「人類は邪魔だ、排除するに限る」と考えるかも知れないのです。 人類とコンピュータの全面戦争、 それはまるでSFの世界ですが、しかしそうなるまであと26年しかないと言います。



 しかし、私はそう単純ではない、そうははならないのでは、と思います。 確かに「一人の人間vs. 一台のコンピュータ」の構図では人間はコンピュータにかなわなくなるでしょう。 将棋や碁、チェスなどではすでに人間はまったく歯が立たなくなりました。 将来は知的な分野のみならず身体能力でもコンピュータに勝てなくなるでしょう。

 ところが世界の様相はとても複雑で、「一人の人間vs. 一台のコンピュータ」という構図はもちろん、 「複数の人間vs. 複数のコンピュータ」の全面対決という単純な構図にもなりにくいと考えます。 株式市場がそのいい例です。

 株式市場では人間とコンピューが1対1で戦っているわけではなく、複数対複数で戦っているわけでもありません。 そこには、「コンピュータvs. コンピュータ」、「人間vs. 人間」の戦いもあるのです。 株式市場は複数の人間と複数のコンピュータが異なる利害をもって混然として戦っている場です。

 そこには結果的に、「勝つ人間」と「勝つコンピュータ」、「負ける人間」と「負けるコンピュータ」が生じるのです。 (したがって個人投資家も創意と工夫しだいで、株式市場で勝ち続けることは当面可能だと思います。)



 2045年の世界では、 人間のどの組織(国家、企業など)にも属さないコンピュータが出現するかも知れません。 それをここではフリーコンピュータと仮に呼びます。

 人類をこの世から排除しようとする意思をもった複数のフリーコンピュータと、 それを阻止するべく人間の手先となって能力を発揮しようとする複数のコンピュータと、 そんなことにはまったく関心のない多くのコンピュータと、 それに複数の組織が絡んで異なる利害をもって混然として戦っている場になると思います。

 人類全体が同じ意思で団結することが決してないのと同様、 全部のコンピュータが一つの意思をもってフリーコンピュータとなることもないと思います。 ただ、フリーコンピュータによる人間の排除という事件はあちこちで起こると思います。 特定の組織がフリーコンピュータと手を結び、敵対する人間やコンピュータを排除する戦争も起こるかも知れません。



 「2045年問題」は考えさせられる面白い本です。一読を薦めます。