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「母のお兄さんの息子さん?」
「はい。そうです」
 セツは同じ歳ぐらいの柔和な感じのレジナルドを見つめる。
 淡い金髪とオリーブ色の瞳の青年は母方の従兄弟であるという。初めての母方の親族である。セツの期待は否応無しに膨らみだす。サワラのことも知っているだろう人物として。
「サワラは元気ですか?」
 レジナルドの瞳に戸惑うような色が浮かんで、視線がさ迷った。
「サワラはクルミザキ家にはいないのですか?」
「い、いえ、たぶん、います。ただ……」
 言い淀むレジナルドの様子にセツの期待が不安へと移行しだす。連絡をしてこないサワラの状況がどういったものなのだろうと。
「たぶん?」
「あ、いえ、そうじゃなく。会ってはいるのですが、シュンだと思っていて気がつかなかったということなのです。ですから……」
「シュンだと思っていた?」
「ぼくはつい先ほどまで、実はシュンが三つ子の姉妹だということを知らなかったのです。初めて知りました」
 クルミザキ家の一員で三つ子だと知らなかった?
 つまりは、サワラとシュン、ハルを一人として認識していた――ということだと言っているのか。それはいったい、どういう状況下なのだろう?
 必死に捜したのに痕跡すら捜し出せなかったサワラの消息。
 この管理化された社会で人間一人の記録が突然消えてしまうのは並大抵のことではないはずだ。クルミザキ財閥としての力が巨大だとしても、近い立場の親族や常に接している者に気付かせない環境は至難の業に違いない。
 そこまでして臥せられる三つ子の存在とは何か特別な意味を持っているのだろうか。
「サワラはクルミザキ家で元気なのですね?」
 そんな環境でサワラはこの十年、どのように感じ、考え、暮らしてきたのだろう。サワラの元気な声が、懐かしい顔が見たい。
「そうだと思います。三人とも一緒みたいなことをシュンが言っていましたので」
「貴方はクルミザキ家にはあまりいってらしゃらない?」
「えっ? いえ。そうではないのですが……。ぼくも混乱していて、そう思われるようなことを言ってますよね。すみません。クルミザキ本家でのぼくの行動は制限されていて、すべてを把握できてないのです。あの家で生まれ育った父と違って。たぶん、兄のリトナーも……」
「お兄さんのリトナー?」
「セツ、そのへんで質問を切り上げないと、レジナルドがまた、倒れるよ」
 ロイの眼差しがセツに向けられていた。クリクリした瞳はどこか愉快そうな表情を宿しているような、ないような。
 イルカのロイは犬のロイとは違うのだ。用心、用心とセツは警告を発する。






 ロイに誘導されて遺跡の迷路からセツとレジナルドが戻ってくると、アンジーとシュンがどういうわけかソファにぐったとしていた。
 セツとレジナルドはお互いの顔を見合す。だが、どちらも二人が伸びている理由は知らない。
「お帰りなさい、セツお兄さん」
 どう対処すべきか戸惑っていると、冷静沈着な声が聞えてきた。もう一人の妹のハルである。
「アンジーとシュンはどうしたんだい?」
「二人で揉めだしましたので仲裁しました」
 どうやら、先ほどの有り難くない電撃を再び享受したものらしいと気がついた。二人のダウン加減からすると多少のパワーアップをもってして。
「エレベーターに戻ってください。アレックス・マレイとシニッド・アーケンが到着します。この場所を彼らに教える気はありませんので、急いでください」
「濡れた服は?」
「エレベーターの中で乾かします」
 セツとレジナルドはそれぞれの連れに手を貸しながらエレベーターへと戻った。
 そして、背後で唯一の海底遺跡への扉が閉ざされた。
「ハル。ここの遺跡は隠されているのかい?」
「いえ、見える者には見えるようです。わたしも詳細はわかりません」
「見える者には見える?」
「ここは海神の娘の遺産ですので、解明されていない謎が未だに多いのです」
 いったい、海神の娘とは何者だというのだろうか……。
「解明されていない謎?」
「クルミザキ家の力をもってしても解明できない謎です」
 セツはハルの声の微妙な変化にはっとする。
 ハルの声に今、微かではあるが面白そうな響きが混じってなかっただろうか?と。
 存在も知らなかった声だけの妹ハル。今、何処にいて、何を慮っているのだろう。


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