朝食が済むと明生とアリアと両親は帰途についた。明生は予定通りにだが、アリアと両親は急に旅行の予定を組んだのである。
 アリアの嬉しそうな顔を見ながら、晴生はホッと胸を撫で下ろしていた。これでしばらく例のことでアリアの追求を受けずに済むと思ったのである。それまでに回答を用意すればいい。晴生としては、このまま忘れてしまって欲しかったが、しつこい性格のアリアである。思い出してメールで尋ねてくるかもしれない可能性もあった。
 久しぶりに駅まで祖父母が送って行ったので晴生は一人になった。
 自然とお蔵に足が向いた。
 晴生はお蔵の前で戸惑った。お蔵の様子がいつもと違う感じがするのである。外見は変わっていないようだがどこかが違うのである。確かにどこかが異質で馴染みのない物のようだった。
「お蔵の精?」
 答えはなかった。姿も現れない。
「もう一人の明生兄貴?」
 やはり、晴生の呼びかけに応えるものはなかった。
 晴生はしばらくぶらぶらしながら待っていたが、やがて諦めて立ち去った。



◆◇◆◇◆

 もしも 願い事があって
 お蔵の精に出会ったらとしてもそれは自身の弱さを映したものだよ
 お願い事をしてごらんという誘惑に負けたら



 ひとつは叶うよ 脆い歪められた欲望が
 ひとつは失うよ 自分の人間としての誇りを
 それがお蔵の掟が伝えるお告げ



 もしも 願い事があって
 お蔵の精に出会ったらとしてもそれは自身の弱さを映したものだよ
 お願い事をしてごらんという誘惑に負けたら
 
 ただし内緒だよと耳打ちするのは人でなしの囁き
 人に話したらお終いと強迫するのは強欲さの現れ
 それがお蔵の掟が伝える戒め



 もしも 願い事があって
 お蔵の精に出会ったらとしてもそれは自身の弱さを映したものだよ
 お願い事をしてごらんという誘惑に負けたら
 
 お蔵の願い事は人間の歩む道を歪めたもの
 一生に一度が常に連鎖の心の平穏が得られない日々
 それがお蔵の掟が伝える怖さ



 もしも 願い事があって どうしても叶えたい事があったとして
 お蔵の精に出会ったらとしてもそれは自身の弱さを映したものだよ
 お願い事をしてごらんという誘惑に負けたら
 
 願い事を頼んだらあたりまえの日常が破滅に向うよ
 後には引けないから大切なものを永遠に失うよ
 それがお蔵の掟の伝える哀しみ

置蔵村のお蔵の掟





おしまい





最後までお読みいただいてありがとうございました。



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